Part 1 世界一危険で過酷なロードレースへ

マン島TT(Isle of Man Tourist Trophy)は、イギリスのグレートブリテン島とアイルランド島の間に浮かぶ英王領・マン島で行われる公道レースだ。初開催は1907年で、世界最古のロードレースとしても知られている。

20世紀初頭、ヨーロッパを中心としたバイクメーカーにとって、マン島TTで優勝することは名誉であり、自社の開発力を世界にアピールする絶好の機会だった。持てる資金と知恵を総動員してレーシングバイクを作ってマン島TTに出場し、そこで得たノウハウを市販車へとフィードバックしたのである。現代につながるオートバイ文化の礎が、マン島TTにあると言ってもいいだろう。
ノートンはそんなマン島TTの第1回大会で優勝を果たし、その名を世界に知らしめた。さらに1950年代までに実に10回以上の勝利を収め、マン島TTの歴史にノートンの名を刻んだのである。

現在のマン島TTは「世界一危険なロードレース」とも言われている。レースの舞台となるのはあくまで公道。従ってライダーたちは民家の壁や塀、石垣に肩やヘルメットを擦りそうになりながら、200km/h以上の平均速度で駆け抜けていくのだ。1周約60kmのラップタイムは17分台。日本でたとえるなら、東京から鈴鹿サーキットまでの「下道」を2時間足らず(!)で走破すると思ってほぼ間違いない。
マン島TTはそんな危険なレースではあるが、ライダーと観客が気軽にコミュニケーションできることでも知られている。2週間にもおよぶレース中、開放されたピットには世界中からファンが詰めかけ、マシン整備の様子を眺めたりライダーと記念撮影をするなどフレンドリーにTTを楽しむのだ。さらにロードレースだけでなく、ビーチモトクロスやエンデューロ、オーナーズミーティングやコンテスト、海に面したプロムナードでの移動遊園地やビアガーデンといったたくさんのイベントが行われることも、マン島がライダーを虜にする理由のひとつだ。

1992年、ノートンはそんなマン島TTに復活し、スティーブ・ヒスロップが乗るABUSノートンがシニアTTを制して優勝。30年ぶりの栄光を勝ち取っている。そして2012年から、ノートンはマン島TTへの参戦を三度再開、新たな挑戦をスタートさせたのだ。

 


レースウィーク中はビーチモトクロスやエンデューロなどのレース、オーナーズミーティングやコンテストなど毎日のようにイベントが開催され、島全体がバイクで溢れかえる。


ダグラスのプロムナードには移動遊園地がやってきて、絶叫マシンやお化け屋敷といった体感アトラクションをはじめ、射的やお菓子屋などが立ち並び、若者や家族連れで賑わう。


決勝レース中のグランドスタンドには多くの観客がつめかけ、レースを観戦する。ライダーたちが170mph(時速270km)で駆け抜ける様やピット作業も見られる絶好のポイント。


TTライダーたちはタイムや順位に関係なく誰もがヒーローだ。少年たちはライダーのサインを集めるのに夢中になる。気軽にサインを求められる距離感もマン島TTならではだ。


グランドスタンドにある広場にはバーガーやアイスクリーム、ビールなどを売るスタンドが並び、レースウィーク中は多くの観戦客で賑わう。隣では公式グッズも売っている。

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